1999年07月30日 Fri

「谷口建設社屋」

1998年度日本建築学会北陸支部 北陸建築文化賞
募集締め切り 1999/01/29
受賞連絡 1999/04/01
表彰式・作品発表 1999/07/30 北陸支部大会(富山県民会館)
作品発表会 県民会館701号室 16:58〜17:30 
表彰式及び懇親会 県民会館8階レストラン 17:30〜20:00 
二次会 マンテンホテル11階レストラン 
三次会 1階のカフェ

受賞のスピーチ 殆どアドリブだったのでだいだいの内容です

二十何年か前、私が大学生の時に、先程乾杯の音頭をとられた横尾先生の講義を受けたことがあります。意匠設計が専攻で構造が苦手だった私は、多分出来の悪い学生でした。しかし、その先生と同じ花を胸に付けて今日この場所で表彰されることは光栄な事だと思っています。

今回嬉しかったことが二つあります。一つは。この賞はゼネコンの社屋に対して頂いたものですが、普通建設会社は自社で設計するはずなのですが、それを一人でやっている小さい設計事務所に依頼して貰えたこと。もう一つは、その建物が評価されてこの場所にいるということは谷口建設の期待に応えることができたのではないかということです。

今回の受賞作を観ますと、大規模な公共建築・一般建築・住宅の修景と多岐に渡っていました。それをある尺度で「良い建築」として評価し審査することは難しいことだろうと思いますが、工事金額の高い大きい施設だけが受賞するのではないことが分かってとても嬉しく思いました。今後も、質の高い建築をめざして一つ一つの仕事を大切にして設計活動に励みたいと思っています。
先日、建築関係以外の友人と話していて、たまたま建築賞の話題になったのですが、「建築賞を貰うメリットは何?」という質問に「名誉かなぁ」と応えると、「それじゃぁ喰えねぇじゃん!」と言われ大笑いしたのですが、実はもう一つ私にとっては大切なことがありました。建築賞に応募することによって、第三者の評価を受け批評されることで自分がどの辺の位置にいるかを知ることです。賞に応募するにはかなりのエネルギーを使いますが、これからもそのエネルギーを持ち続けて行きたいものだと思っています。


スライドを使っての発表内容

この谷口建設は、職員30人程度の規模で、製材所と大工を自社で抱えています。最近はそうした建設会社が少なくなっているので、そのことを活かした事務所を造ろうと木造で社屋を設計することにしました。今回の設計でやりたかったことは大きく分けて二つありました。一つは事務空間を家具を含めてデザインすること、もう一つは木造でどこまでのことができるかということです。

これまで建築関係の雑誌を観ていても、事務所建築というとファサードデザインには力を注いであるのですが、事務機器の配置については家具メーカーやクライアントにおまかせという印象を受けていました。そこで、大企業ならそれに応じた、また小規模の企業ならそれに見合った、事務空間がデザインされるべきではないかと思っていたことを実験的にやってみました。普通の事務所にありがちな、事務机を田の字型に配置することを止めて壁際に持っていき,高さ1200の本棚でオープンなスペースを区切ることで、打合せ空間を創り出すことができました。家具で囲われることによって、事務空間の中央にありながら静かな雰囲気を持った部屋のようにすることができました。打合せテーブルには「カシノキ」を使っています。

事務所内は温水式床暖房でシンダーコンクリートに蓄熱しています。この方式ではシンダーのクラックを避けることが難しく、床材まで影響を及ぼすことがあるのですが、今回はウッドタイルという900×75厚さ3mmのものを乱貼りすることで貼替などの改修を容易にしています。また蓄熱しているとフリーアクセスフロアとの両立は難しいのですが、この設計では要求される機能を腰壁に設ける事で解決しています。

壁際の事務机はパソコンを前に置いても別の作業がしやすいように奥行きをとり、前面の壁にはライティングレールを埋め込んで、どこからでもコンセントがとれるようにしてあります。各々の照明器具のスイッチや電話のモジュラージャック・LANの口も用意されています。また乱雑になりやすい小物を置くために、窓台下にレールを埋め込み、キッチン用品を転用した、ラックも設けられています。600幅のユニットを並べた上に積層材の板をただ載せるだけで事務机を造り、建設会社特有の、会社と現場を往ききし人数が変動する事務に対応するために、一人一人を区別しない長テーブル状にしました。また打合せテーブルなどには本物の木を使うことで、温かさと柔らかさを演出しています。この会議テーブルは「神代ケヤキ」を使っています。
木の温かさをもった気持ちのいい事務空間を造ってみたかったので、それぞれの場所に応じた木を使っています。玄関には「台湾ヒノキ」を使ったのですが、表面を鑿でテクスチャをつけることによって表情を持たせ、アクセントに神代ケヤキのちぎりを入れてみました。

次に木造でどこまでの事がやれるかについてですが、構造的にシンプルな小屋組と新しい屋根のディテールを課題にしてみました。力を伝達するだけの垂木や母屋などの部材を使わず、野地板を厚くして直接梁に荷重を流すことでシンプルな小屋組を実現しました。外断熱のシート防水で断熱性能などを落とさず、また構造の部材点数を減らすことによって、積雪荷重1.5mという条件の中で太平洋側と同じように薄く軽快な屋根をつくりたいという目的も果たすことができたと思っています。

外壁を保護するために庇を出したいけれど、「軒樋」や「よび樋」がデザイン上なかなかうまくいかないので、これを何とかしたいと以前から思っていたのですが、今回は、屋根全体を樋と考えて曲面の屋根形状にすることで解決することができました。またこの形は屋根からの落雪事故を防ぐための形でもあります。

屋根と樋の関係ですが、両方の妻側に塩ビ製の50×50のアングルを溶着し、曲面の最下部に溜まった水を片側2ヶ所・計4ヶ所設けられた竪樋で抜いています。アングルを乗り越えて水が溢れたときにはドレンが詰まったことに気付かざるを得ないという屋根になっているわけです。

谷口建設の大梁はムク材を使ってみたかったので、2本継ぎにしています。無垢材を使うことによって生じる、木の狂いや割れは補修していかなければなりませんが、それは私達にとって今後の勉強になるだろうと思っています。
住宅のように神経質な建物ではないので、2階部分は野地板を晒しで天井にしているのですが、思ったほど荒々しい感じもなく皮剥丸太の柱と違和感なく溶け込んでいるように感じています。

たまたま谷口建設と同時期に広島で住宅をやる機会があったので、形は似ていますが違ったやり方を試してみました。広島の方は「そり」や「割れ」の補修作業やナットの増し締めの手間をなくすために一本の構造用集成材で梁を造っています。リビングが二階にあり天井への距離が短いので、野地板を下地として档と呼ばれる能登ヒバを仕上に張っています。この住宅では瀬戸内海に面して建っているということもあって、台風時の吹き上げを考慮して全ての束部分に通しの鉄筋を入れて緊結しています。

また、今回の曲面の屋根の廉価版としてフラットなものも最近実験しています。これは、以前から敷地の一部にあった地蔵堂を社屋といっしょに新しくしたものです。次は、珠洲に完成したばかりの住宅です。ここではペフを防水下に挟んで防音性能を上げる実験をしてみました。これまでは野地板を雇い実にしていたのですが、思ったより人工数がかかることと、もっと屋根面の強度を高めるために今後、構造用合板などで裏打ちするなどの実験を重ねていきたいと思っています。

この建物は竣工後2年が過ぎているのですが、予想しなかった利点がありました。雪が積もったときに切り妻と違って太陽が常にまんべんなくあたるせいで、近所から融雪装置でもつけているのかと聞かれるくらい屋根の雪融けが早いことに驚いています。

この曲面の屋根は西日を遮るために芯をずらして傾けていますが、結果的に右肩上がりの業績を期待する形を表現することになりました。

受賞者
谷口建設社屋-architect office- Strayt Sheep
長村寛行
守破離-歴史と現代の接点に生きる家-
矢島邸修景計画
片倉隆幸建築研究室
片倉隆幸
長野市オリンピック記念アリーナ 小野威(久米設計)尾崎勝(鹿島建設)
播繁(播設計室)