1998年12月18日 Fri

「谷口建設社屋」

撮影 三輪晃久写真研究所


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社屋の設計について

私たちが子どもの頃、『一生物』という言葉があった。机や家具を買うときによく聞かされた。その『一生物』とのつき合いの中でつくった少々の傷もや古びも、ひとつの味わいや趣であり、それは使い手の歴史にもなった。
だからこそ愛おしく、撫でたり、思いを込めて磨いたりしたものだ。
例えば木。呼吸をしているから狂う。傷がつきやすいからちょっと気をつかう。やっかいな材料だけれど、木の持つ温かさ、柔らかさに私たちは惹かれる。ちょっとした手間をかけることは、愛情をかけそのものとのつながりを深めることだと思う。
いつしか機能的な工業製品の机が登場し、ボールペンを使っても机の表面が傷つく恐れもないし、引出しもいっぱいついている。しかし、何年か経つと何となく薄汚れて疲れが面に出る。ときには痛々しい気すらした。建築もそれと同じようなものだと思う。

「事務所はメンテナンスフリーがいいよね」
「フリーアクセスフロアにして、照度は・・・」
「とにかくファサードを目立つように」
「家具はこちらで選ぶから」
その結果、写真に撮って面白いのは外観だけ。ワークスペースはどの事務所も似たようなもの。
事務所で働く人が1日の3分の1、あるいはそれ以上の時間を過ごす場なのに、便利さと外観ばかりが求められ何故「心地良さ」は二の次になってしまうのだろう?
事務空間はただ単なる容れ物ではない。家具と空間が一体になって、初めて働きやすい事務所になるのでは・・・。あの木の机の温かさをもった気持ちのいい事務空間を造ってみたいと思った。

ゼネコンの職員の大部分は現場に常駐となるため,各自専用の机は必要ないが、人数分の居場所は確保しておきたい。また、パソコンを使用するとき,既製の事務机では奥行きが足りないし,図面をひろげて作業するには横幅が足りない。
そこで、この要求を満足させるために、幅600高さ660のユニットを並べた上へ、1800×900×40の積層材をのせて個々の区別のない連続した作業台とした。ユニットにはパソコン本体が置かれ、その下にはA4ファイルを並べることができ中段をはずすとA1青焼製本を置くこともできる。このユニットを使用した作業台は、どこからでも電源を取ることができるよう腰壁にはショップラインを埋め込み、電話のモジュラージャックやLANの口も一定間隔で配置することによってフリーアクセスフロアーに匹敵する性能を持たせ、私の事務所のプロトタイプを発展させている。
通常、ワークスペース中央に事務机、窓や壁際にロッカーやキャビネット、打合せ・会議テーブルをパーティションで仕切って配置しているオフィスが多い。今回のプランでは、机をすべて窓・壁際にもっていくことによって中央に会議・打合せテーブルをゆったりと配置することができた。
オープンな事務空間を木製の家具で仕切るだけにしたことで、事務空間の変化に対応できる柔軟で伸び伸びとした温かみのあるワークスペースになった。

建物の空間構成については、製材所を持ち、大工を抱える近頃まれなゼネコンの社屋であることの特色を出すために木造でなにがやれるかを試してみることになった。
構造計算にのってこない副部材とでもいうような母屋・垂木といった荷重を伝達するだけの部材点数を極力少なくし直に荷重を受ける野地板と梁だけで構成する屋根にした。
刀型の梁を1,800mm間隔で配した上に40mm厚の板を並べて野地板とし、その上に断熱材を敷き、塩ビシート防水で屋根を造る。
並べた野地板は、ばらばらに動かないように「雇い実」として摩擦を増し、面としての剛性を持たせている。
珠洲は積雪荷重を1.5mとする地域であるが、勾配屋根でも雪止めを付けて落雪の被害を防止している。そこで積極的に雪を溜めることにし、荷重を一番受ける部分に柱がくるように、梁は片側上がりに偏心させている。妻側の小さな立上げによって溜まった雨水は、両端の竪樋から排水される。
この形の屋根にすることによって、外壁を保護するために庇を出したいが、軒樋・呼樋は付けたくない、というジレンマからも逃れることができた。
右上がりに偏心させた刀型の梁によって西日の影響が少なくなり、また会社の今後の業績を期待した「右肩上がり」の形を表現することにもなった。
コストを抑えるために一般部材はプレカットとし、300φの杉の皮剥丸太廻りと刀型梁は大工加工として地方にとっての工場加工という新しい技術と手作業との摺り合わせを兼ねての現場となった。


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